「日本産榧材の良さ」
碁盤、将棋盤の材料に使われる日本産の本榧についてご説明いたします。
榧はイチイ科の常緑喬木、裸子植物です。岩手山形両県以南の本州・四国・九州の山野に分布しています。
雄・雌異株、碁盤将棋盤はじめ風呂桶に適材とありますが、樹脂が多いこと毛細管現象が他の樹に比べ少ないこと、木質が緻密であることなどがあげられます。
この木性は、盤にとって重大な役割をしているので、完全乾燥された盤は、再び湿気を帯びることが少なく乾燥度を保つということで盤に最適です。
完成された盤は湿度の多い梅雨期であっても、冬季湿度の低い乾燥期にあっても、盤の含有する湿度に変化がなく安定した乾燥度を保ちます。春夏秋冬いつ碁を打っても将棋を指してもその打ち味指し味に変わりがありません。この優れた特性は耐久性においても好条件になることはいうまでもありません。
「日本産榧材の木質部の組織」
緻密で樹脂が多く春目秋目の硬さがほぼ均一です。削り肌は木目が鮮明で光沢があり独特の淡い芳香を放ちます。
「日本産榧材の色彩」
立木時の立地条件により多少の差はありますが、ごく一般的に評すれば黄口・赤口と二通りに区別されます。黄口は明るく淡黄色で赤口は別名「あづき目」と言われるように黄紅色の強いもので宮崎県の綾地方から産出されるものに多く見られます。
「日本産榧材の弾力性」
木質としては堅木に属し、弾力性に富む特性があるため使用上は柔らかく感じ、音響は高い冴えた音がします。榧盤を使うと肩が凝らないといわれるのもこの弾力性によるものです。
「日本産榧材の耐久性」
緻密な材質・樹脂が多いこと毛細管現象が少ないことこれだけ好条件が揃えば何の木にしろ耐久性が強くなることは確かであり、その上、木肌の美しいこと、芳香などを加えるので盤材としては最高です。
「日本産榧材の木取り」
丸太の芯を通して二つ割にして使用するものを板目取り丸太の芯を放射線状に挽いて使用するものを柾取りと呼びます。木取りされた材料を上物(高級品)から順に挙げると次のようになります。
1.四方柾
2.天地柾
3.天柾
4.追柾
5.板目(木裏・木表)特殊材として杢盤
※古いもので江戸時代に製作された四方木口という木取りのものもあります。当時は魔除け盤として珍重されました。
「日本産榧材の木性・木味」
木性は木の個性と解釈してください。個々の木の特性であり、それが盤の場合は長所とも欠点ともなる肝心な条件の一つである。実際には原木の丸太の切り口とか製材面の木肌に現れた感じから木性を推測することができます。
また加工した際には手ごたえに感じ、硬さ・柔らかさ・刃物の切り味など材にはクルイやすさ・割れの数等(亀裂)に相違が現れる。完成された盤においては、見映え・触感などに違いが出ます。
木味は、木性という木の個性が原因して現れるもので、木性と同じく目で見てわかります。また実際に材を加工してわかるものなどがあります。色彩とか木目などは目でわかりますが、硬さ・柔らかさなどは加工を通して分かるもので、木性と同じく経験によって得た勘で見分けるようなことが多い。木味は木性に原因するものであるから木性・木味は相関関係にあり全く別々には考えられません。
立木を伐採してから盤として完成するまでの期間が大切で自然の理に応じて木質の安定すなわち乾燥を待ちます(所謂、天然乾燥のこと)。材質などの点で同一条件のものであれば乾燥が重く仕上がるのが良いのです。
「日本産榧材の作り」
造形上から見ても、盤のように平面と凹面・直線と曲線のこの単純な構成で、その美しさを発揮させるということは恐らく単純美の限界に挑むといっても言い過ぎではないと思います。これ以上単純化されたものは多くは見当たらないだろう。物の形は単純化されればされるほどその構成要素の内容が豊富になることは必然であり作る者の苦心もまたここに集約されます。
師匠(初代)からは、盤を見れば何某の作と分かったものだとよく聞かされましたが、最近はそれほど個性のある盤はなかなか見られなくなりました。これは、高級盤・工芸品といっても作者がそこまで追求して完成させるものが少なくなったからであると思います。
普及品は普及の目的と大義名分があり、安価で入手しやすいように作られ、普及に役立たなければならないのですが、高級品は求められる目的が自から違います。そこで美的な要求が厳しく追及され、芸術的な工作が施されたものでなければならないものだと思います。盤の木取りのランクが上位であるから高級盤であるというだけでは寂しい限りである。伝統工芸品としての工作がそこになければならないのではないでしょうか。
余談ですが、日本棋院発行の雑誌「囲碁クラブ」に「消費者も早くプロの消費者になってもらいたい」という記事が出ていたことがあるが、これこそが私も強く願ってきたことです。
「日本産榧材の枯渇」
近年、囲碁・将棋の普及と共に榧盤の認識も高まり周知されてきました。以前と比較すると需要が急に増加してきたようです。その影響を受けて、小径木(直径の小さい100年程度の木)まで伐採されるようになってきました。これは嘆かわしい傾向ではないでしょうか。現在のような速さで立木を伐っていたらそのうち盤になる木は尽きてしまうのではないだろうかと感じています。木の文化を絶やさない為にも、将来を見据えて植林が欠かせないのが現代の責務です。
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